76 歯をとぎに来たむじな

76 歯をとぎに来たむじな

 奈良橋の八幡さまの裏山は、松の大木がうっそうとした昼間も薄暗いとても淋しい所でした。山の斜面に穴を掘ってくらすきつねやたぬきなど野生の動物がたくさんすんでいました。むじなもいました。むじなは狸に似ているが丸い顔で人の声をまねたといいます。穴を掘るのが上手でした。穴掘りの下手なきつねやたぬきに外出中に穴を占領されてしまいます。けれど大変きれい好きで、一度占領された穴には他人の?臭いをきらって別の所にまた穴を掘ります。

 また歯をとぎに時々里に出てきました。

 八幡さまの東、寺前の石川さんは、家にむじなが歯をとぎに来たという話を子供の頃おばあさんから聞きました。
 当時本村の方を根通りといっていたのですが家も少なく、畑仕事には原の多い青梅橋のあたりまで出掛けて働きました。留守になりますが鍵をかける家は一軒もありませんでした。台所の土間からイロリになっています。イロリにはいつも長い火ばしがさしてありました。

 ある日畑から帰ると、イロリの火ばしが折れてなくなっていました。おばあさんは「きっとむじながかじって歯をといでいったんだよ」と言っていました。山からおりて来たむじなが勝手に上り込んで、火ばしをかじって食べてしまったのでした。

 高木村にもかしの実(どんぐり)が落ちる頃、夜になるとオーイ、オーイと人を呼ぶ声がしました。むじなが好物のどんぐりを拾いに庭先にきて喘いているのでした。また寄合から帰るご主人のまねをして、しっぽで戸をトントンとたたき、家の者をだましたりしました。
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